ルアーフェスタ福岡 その3


塚本・痴虫松本両氏に対するお届け物の私の担当分は用意できた。
私の事前準備の役割はこれで終えたはずだった。

しかし…仕掛けはこれだけでは終わらなかった。
いや、それだけで許してくれる人がいなかった。
競馬でいえば、今回の私は騎手の指示に従うだけの馬だ。
言われるがままに身を委ねるだけの存在でしかなかった。

もう何も考えないようにしよう。
そう、私は馬だ。馬になろう。


「はい、これ着て」
Flameねーさんからそんな指示がくだる。

優しい口調ながら、そこには拒否することを許さない強い意志があった。
彼女こそが騎手であり、今回の黒幕であり、全てを束ねるプロデューサー的立場だ。
「なあ、これ、やっぱ着ないとだめなん?」

そんな言葉が喉まで出かかったが、車中にそれを許す空気は皆無だった。

現地に向かう車中、渡された服に袖を、いや足さえもを通してた瞬間、私は全てを覚悟した。

齢四十をとうに過ぎたこのおっさんが、人生初のコスプレをすることになったのだ。




中年のおっさんが人生初コスプレである。
リラックマのコスプレではない。
痴虫のコスプレである。

人生をマラソンに例えることがよくあるが、私なぞはもうとうの昔に折り返し地点を過ぎた年齢である。
そう、すべてに責任を持ち、行動しなければならない年齢でもある。
マラソンでいうゴールをする瞬間、すなわち死する時、それは私のマラソンにとっていつなのだろう。

不摂生な毎日を過ごしているため、もうゴールテープを切る瞬間なのかもしれない。
ゴールする瞬間が今まさにコスプレしているこの時という可能性だってあるのだ。

ヘタしたら遺影がコスプレになる可能性だって秘めている。

もういいや、遺影がコスプレでもいいや。



全てを覚悟し、車から降りた。
大きなイベントにも関わらず、店舗前の駐車場に停められたことが不幸中の幸いでもあった。

もし店舗前が満車で遠くのコインパーキングに停めなければならなかったらと思うと…全てを終え、ある程度振りかえる余裕が出来た今でも冷や汗がでる。
ああ、よかった。店舗前でよかった。

しかし、駐車位置から店舗入り口まで10mぐらいだろうか。

その10mがまあ遠い!


入り口に近づくにつれ、私たちの存在に気付く人が出てきた。

それまで会話をしていたであろうその方々の会話が止まる瞬間が分かる。
私たちに視界を向けた瞬間、一瞬の会話の静寂が生まれる。
リアルな「二度見」ってのも見ることが出来た。

ここまできたら引き下がれない。もう入るしかない。

私たちは店舗へと入った。

やはりそこにも店員、お客さんの会話があった。

人の耳はある程度の雑音の中でも注視することで特定の音・会話を聞くことが出来る。
そういう対象物を設定せず、全体の「音」を耳に入れていたのだが、入った瞬間、すべての会話の音が消えた瞬間を感じた。
そしてその「無音の瞬間」は私たちの格好を見た瞬間に生まれた。

それはほんの一瞬だったはずだ。一瞬の無音の後、どよめきというか「えぇ?」みたいな驚きというか笑いというか…決して大きなものではないが、十人十色のリアクションを肌で感じた。

一瞬の無のあと、空気が、雰囲気が揺れたのを感じた。


ええぇい!このまま行っちまえ!



コンタクト成功!!
お客と談笑していた痴虫氏が、入り口の一瞬の静寂を感じ取り、私たちの方をみた瞬間、お客に見せていた笑顔が素にもどった。
鳩が豆鉄砲をくらったというのはあの表情のことを表すのかもしれない。
その状況は僅かだった。全てを理解した瞬間口元が弛んだ。

その一瞬の隙をつくように私たちは痴虫、塚本氏の懐に飛び込んだ。

入店してしばらくはまだ余裕があった。
お二人もすごく喜んでくれた(と思う)し、店員さんにも制止されなかった(今後出禁って言われたらどうしよう)し、来店されていた某有名ショップの方とかビルダーさんとか、写真バシャバシャ撮られて(相変わらずの情報オンチなので、どなたに撮られているかと後で聞かされたのだが)…まあ、想定内の中で両氏への御挨拶と事前に用意したお土産もお渡しすることができた。



もうね、この笑顔を見たいがために、いまやKNB一の痴虫ファンでもあるFlameねーさんは頑張ってこられたのです。
そして、この笑顔を見たいがために、私はコスプレをさせられているわけです。




全員で記念写真。
私がリラックマ、Flameがコリラックマ、ヤジがキイロイトリというリラックマファミリーがベースになっているが、あくまでもテーマは

「痴虫のコスプレ」


である。

写真で見ると、痴虫氏はレッサーパンダの着ぐるみを着ているが、腹が黒いため一番地味に見えるという、あろうことか主役を食ってしまうという暴挙に出てしまった。

そして本来は一番着ぐるみっぽいキャラであるSHINGOは何のコスプレもしていない。
いいのだ。一人ぐらいまともな格好してるのがいなければならないのだ。
今回のSHINGOは、C-C-Bで言うところの唯一髪を染めなかったギターの米川英之だ。


一通りの御挨拶も済んで、空気も落ち着いてきた。
他のお客もたくさんいるし、お二人とお話ししたい方もたくさんいるだろう。
なるべくジャマにならないように、私たちも今回出展している様々な商品を見て回ることにした。



塚本さんのKTW/mibro、ノースフォークコンポジットのブースでは、各種ルアーの展示、そして今夏に発売されるらしい新型インジェクションクランクが展示。マジで期待させられる形とそして美しさ。
そしてBOREAS+KTW+ハニースポットによるアノストのオリジナルカラーを展示。


痴虫ブースでは、海馬やボルチ等のルアーの他、さすがアーティスティックな一面を見せてくれるオシャレなシャベル「オシャベル」や痴虫作招き猫の販売。
前回もルアーのカラーのパネルを展示していたが、こういう漁具としてのルアーだけでなく、アートな一面を見せてくれるとこがいい。
バスカラーのオシャベル、マジで欲しかったなぁ…
(なんで買えなかったか、それはこの後で散財するからなのだが…)


さあ、ここで今回の「痴虫コスプレ」について解説しよう!
痴虫コスプレは、ベースとなる着ぐるみ以外Flameによる手づくりである。

※参考画像:2014年9月、開催された痴虫一日大博覧会より


痴虫といえば着ぐるみ、そして大事なのがライジャケと肩にのる「ぽーぽーちゃん(フクロウ)」等の小道具。
これらをいかに再現するかに注力された。
とはいえ、ライジャケをそのまま加工するわけにはいかない。そもそも普段使っているのがベルトタイプなので痴虫スタイルを再現できない
そこでFlameが講じた手段が、段ボールに布地をミシンで縫い、それに様々なキャラクターを載せるという方法。


関連ロゴと、あいかわらずの出たがり犬「シャロー」などがちりばめられたデザイン。
しかしその中でも特に目を引くのが、私が着用することになる分の「沼海馬」の文字。













沼海馬っ!








ここまでデカイ楷書体で表現されると、もはやルアー名というより焼酎である。
文字が持つイメージというのは本当に重要だ。

しかし、「沼海馬」という文字は、そのフォントサイズとフォントスタイルを変更するだけで、ルアーとしての意味合いから、アルコール系へと変化するということを今回知るコトができた。


キリッと!
ぬるっと!
沼海馬っ!




※これ、コラージュですからね。売ってないですよ




まあ、いろいろとちりばめて作って…
しゃろ毛て…

ライフジャケットっぽく作りつつも、「これはライフジャケットではありません」と書く潔さ。
世の中に溢れる「なんちゃってマウンテンバイク」のようだね。

マウンテンバイク風のスタイルながら、注意書きにひっそりと「荒地等での走行はお控え下さい」って書いてあるみたいなものだろか。
所々のパーツが(坊やだけんた等)、以前作ったものの流用であるところは、基本めんどくさがりやである彼女らしいところも垣間見える。


こういう細かいところに工夫を入れるなど、私の影響を受けておるな。
そう、こういう気付かれづらいところほど手を入れるのが、「りまらば風」なのだっ←何をえらそうに



ただね…このデータがね…これをね…Photoshopで作るってのが、ちょっとシロートなところですけどね。
イラレで作れよイラレで!



ネットでぽーぽーちゃんみたいなフクロウも仕入れ、私の肩にはカバ。



こういう小道具を作りつつ、クッキー等の試作を一ヶ月にわたり続けたFlameねーさん。
ちゃんとくずさんのご飯とか作ってたのか不安になるところだが、遠い地から来てくれる痴虫氏へのおもてなし、そしてKNB的にお世話になってる塚本氏への感謝のおもてなしの気持ちが原動力となっている。

「ふざけたことを全力で大まじめにふざける」
これはKNBに通じる精神かな。
全力でふざけると、めんどくさいことも楽しくできる。
楽しくできるからこそ、率先して出来る。
そんな過程が、この作業を通じてあったような気がする。



さあ、こんな小道具の紹介をしている間にも楽しい時間はどんどん過ぎていく。
しかし、その時間の経過とともに私の身体は…いや精神は異常を来し始めていたのであった…


(続く)