「なんで?」からはじまる浅はかな疑問



今回の事故で、最も多く受けた質問がある。
「なんでライフジャケット着けてたのに亡くなったの?」

ものすごく短絡的な質問だ。

「シートベルトしていてエアバッグも作動したのになんで?」という疑問は聞いたことがないのに。

ライフジャケットを万能にして唯一無二の救命具という認識であるならば今すぐ改めたほうがいい。

しかし、そんな短絡的な質問ではあるが、事故の報を受けた際に、やはり私も同じ疑問を持った。
「ライフジャケットは着けているのに何があったのだろう?」と。
やはり私も浅はかな一人だった。

ライフジャケットを着けていれば助かるわけではない。
特に自動膨張式であるならなおさらだ。

自動膨張であれば、センサーが水を感知しガスを噴出するまでにはラグが生じる。
時間にして最大で10秒ほど。
もちろんそれまでに体制が立て直せれば、手動のレバーを引けばいい。

ただし、水中に落ちるというのは、常に人間の想定を超えた状況でもある。

ボートの喫水にもよるが、大抵の場合、自分の足の位置よりも水面は下にある。
人間がバランスを崩した場合、本能で受け身の体勢を取るが、それは自分の足の位置、すなわち地面を想定した受け身。
それよりもさらに下に落ちるのだから、体は反転したり、まさに「想定しない体勢」で落ちることを表す。

バランスを崩す状況というのは、エレキの操船をミスしたり、エンジン走行での途中であったり、あるいは立ちくらみであったりと全てが想定していない状況。
その落水が、頭から想定せずに落ちた場合、しかも呼吸を止めるという行動が出来なかった場合、水は一気に鼻腔に入る。
鼻腔に入り、気道に入ろうとする水を人間は本能的に排出しようとする。
いわゆる「むせる」という行為。

「むせる」という行為は、肺の中の空気を排出することで行われるわけだから、「むせた」次には本能的に空気を吸おうとする。
その吸おうとする時に、まだ頭が水の中だったら…
次は、一気に肺の中に水が流れ込む。
肺胞に達した水は、緩やかに吸収され体の中に酸素を取り込むのを阻害する。
この状況でライフジャケットがまだ膨らんでいなければ、人はもうパニックだ。手動レバーさえ引けるはずはない。

落水する状況も人の体だけが落ちるとは限らない。
ボート上には沢山のロッドがあり、フックがむき出しのプラグだってついている。
もし、これらが体に刺さった状態で落ちてしまったら、もがくことさえ出来ないかもしれない。

ジョンボートやパントでも、バッテリーやケーブルが向きだしのままの人だっている。
もし バッテリーケーブルに足が絡んで、バッテリーともども沈んでいくということだって考えられる。

腰巻き式のライフジャケットなら、エンジン走行時の落水で気絶して、ライフジャケットが作動したとしても、そのまま「くの字」の状態で顔が水面から出ないままの状態だったという事例もある。

「ライフジャケットを着けていたのに」という前提は、「ライフジャケットが正常に作動すれば」とも言い換えられる。

今回の事故を受けて、私自身もライフジャケットの取り扱いがものすごく雑であったことを感じた。
「なんでライフジャケットを着けてるのに」という質問は、ライフジャケットを正常にメンテ、管理している立場であるからこそ言える。
私はそれさえしてなかったことにも気付いた。

西日本釣り博にて、ライフジャケットメーカーの高階救命器具(ブルーストーム)のスタッフの方から、様々なことをお聞きした。
膨張式ライフジャケットは定期的にボンベを交換することは常識だが、そのボンベ自体が弛むことがあることを知った。
高階社製のライフジャケットは水を感知するセンサー側とボンベを装着している側の両方にそれぞれ異常を知らせるインジケーターが付いているので分かりやすいが、安価な作りのライフジャケットにはそれがない。

ボンベが弛んでいると、とっさの場合に正常に作動しないし、手動レバーを引いたとしても膨張しないことがある。

釣行が終わると、ライフジャケットは車中にいれたまま。メンテもしないし、ボンベの緩みなど確認したこともなかった。

そんな自分の浅はかな知識を恥じるばかり。

これでは、大会に出たいがためにライフジャケットを着けてるように見せてるだけと思われても仕方が無い。
作動するか作動しないか分からないものを腰に巻いてるだけ。こんなのは着用してないのと同じ。
くっそ高いロッドを買って、くっそ高いリールを買って、高いルアーを買いそろえて得意げになって、それでいて肝心のライフジャケットはおざなり。
それに何の意味があるのだ。くそが。

そんな自分に自戒の意味を込めて、ライフジャケットの点検をしてみた。
恥ずかしながら、はじめて触るボンベの部分。
ボンベを握り回してみると、僅かに動いた。

これが正常に動作しないレベルの緩みなのかは分からないが確かに弛んでいた。

今後、高階社製のライフジャケットを新たに購入する予定だが、「ボンベは弛むもの」という新たな認識とともに、釣行の際にはボンベの緩みを確認することを新たなルーティンとして取り入れたい。

「りまさーん、まだ釣っとらんとですかー」とひと回りも年齢下のくせに、いつも煽ってくるあの憎めない笑顔はもうないけれど、彼が与えてくれた教訓は計り知れない。
彼との思い出はたくさんあるけれど、事故の1週間前、萩尾でお互いにボートを準備している際に
「りまさーん、そんなノースフォークのロッドばっかり買って。ミーハーですか」って言った、いつものからかい半分のひと言がずっと耳に残ってて。

「ノースフォークはミーハーじゃねぇだろ。どっちかといえばコアでニッチな感じだろ」と思ったけれど、何故かその時は気の効いた返し言葉が見つからなくて、通夜、葬式の間、ずっと彼のその言葉が頭に残ってた。


事故後、ご遺族、行政サイド、様々なところにごあいさつ、報告、または情報交換に出向いた。まさに「東奔西走」という言葉が当てはまるあっという間の2週間。
「動ける時に、動ける人が、動けるところに動く」
これがKNBの最大の武器。
誰もが危機感を覚えていた、この2週間のフットワークは驚異的だったと思う。
2007年頃、当時代表だった私が参加出来なくなって、運営が停滞していた時も、現代表らが率先して動いて活動を続けてくれた。
そんな積み重ねがあって17年目の今がある。
積み重ねた17年は伊達じゃないという自負がある。

今回は私が一番動ける環境にあったので、たまたま動いただけ。
しかも一人で出来たわけではなく、同じように目的を持った多くのメンバーのバックアップと人脈があればこそ。
自分でも時折思うけど、スイッチが入った時のフットワークの軽さは自分でも驚く。
でも、そのスイッチを入れてくれたのは、彼の上述のひと言。

唯一の心残りは、彼の店に一度も行けなかったこと。
「りまさーん、家近いんだから食べに来て下さいよぉ」

いつも言われてたっけ。
唐揚げが美味いとは聞いていたけど。
でも結局は行けずじまい。
それだけが心残り。

多分、今頃いつもの調子で「りまさん、ごっめーん」ってヘラヘラしながら頭かいてると思う。
そんな彼にも、おそらくいい報告が出来ると思う。

雨降って地固まる。

色んな方からの色んな言葉を聞いて、そして色んな人からのご支援を受けて、そんな言葉が頭によぎる。

バス釣りの技術・知識は相変わらず中級レベルにも及ばないが、KNB、そしてバス釣りに向き合う姿勢には絶対の自信を持っている。
誰にも負けないぐらい真摯に向き合っている自負もある。
自分の行動に自信があるから、周囲の無責任な雑音が聞こえない。動じない。
一片の後ろめたいこともなく、自分の行動と発言に責任を持ち、KNBという独立した思想をもつ団体の中で、絶対に間違ったことをしていないという自負があるからこそ、前に進める。

きっと、さらに良くなる。


【追記】
今回何度も見直した動画。
初歩的な知識です。しかもこんな知識ですら、おざなりな人も多い。
もし、私と同じようにライフジャケットの重要性に向き合っておられる方がいらっしゃいましたら、是非一度ご高覧ください

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